ほっこり親孝行ものがたり『第1回 ふと、思い立ったときに電話する』志賀内泰弘

女房とは、学生時代からの付き合いだ。そのため、わたしの「いいところ」も「わるいところ」も知り尽くしている。「いいところ」はさておき、「わるいところ」を指摘されると、不快になる。なぜなら、図星だからだ。いまだに、しょっちゅう言われること。

「なんで、連絡してくれないのよ!電話一本くらいできるでしょ」
「・・・会議が長引いて」
「電話できるの?できないの?夕飯の支度のことがあるんだから」
「しようと思えば・・・できるかな」
「い~い、あなたはね、そういう小まめじゃないところ、ルーズなところがいけないのよ。それができていたら、もっと出世してたはずよ!」

と、こんな具合だ。まったく、頭が上がらない。そんな女房に言われて、電話を「小まめに」かけるように努めている。女房にはもちろん、他の人にもだ。

「ああ、ヤスオ。何かあったの?」
「いや、別に・・・いいだろ、用がなくたって電話しても」
電話の向こうは、オフクロだ。
「電車のホームね」
「ああ、今、博多駅」
「ホントは何かあったんでしょ」
「う・・・うん。実はさ、出張先でちょっとトラブってさ」
「人間関係?」
「あ、ああ・・・まあ、そんなところかな」
「昔っから人付き合いがヘタだからぇ」
「うるせーよ」
「親に向かって何よ」
「あ、新幹線来た!また電話する」

女房いわく。それが親孝行になるという。3年ほど前のこと。母の日に、どんなプレゼントを贈ったらいいかと相談したら、即座に言われたのだ。「たまには電話して声を聴かせてあげなさいよ」と。それがきっかけで、ときどき、「ふと」思いついた時に電話をするようになった。時間も場所も決めてはいない。

オフクロとの電話を切ると、新幹線のデッキからもう一本電話をかけた。
「もしもしヤスオさん、おげんき?」
耳元で、義母のやさしい声が聴こえた。

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